選ばれなかった私に。

たまった思いを淡々と。

君が泣くのを見たかった

もっと悲しい空を、見た気がする。 まるであつらえたように、君には悲しみがよく似合う。 甘いものを食べれば楽になると、 教えてくれたことは救いだった。 ただ摂取することでしか紛れることがないのなら、 それは理性の領域ではないのだろう。 何千年も昔…

言えなかったごめんもさよならも

ちかちかと点滅するウィンカーの音を、助手席で聞くのが好きだった。 黙ったままで、ぼんやりと窓の景色を眺めて、君には目を向けずに。 いまここで、こんな風に何気なく存在していることを不思議に思う かつての分岐点で、ひとつでも選ばなければここにいな…

さよならは聞こえなかった

優しさは、終わりに似ている。 夕暮れの風の匂いに感じた淋しさが好きだった。 最後にたよりなく落ちた葉の行方をいつまでも追っていた。たとえ死が悲しみでも痛みでも、すべてから解放される救いだと信じたがった。 死んだら星になるのだという綺麗な言葉を…

夏が好きだって言った冬の私に

夏には秋の涼しさを思い、 秋には冬の寒さに怯えて、 いつだって先のことばかりを気にしては、今を忘れた。憐れんだのは君。 それは純粋な優しさで、 だからこそ消えてしまいたくなるから、最悪だね。太陽の光が水面に反射して、それは完璧な夏の日。 そんな…

誰のせいでもないあの虚しい音は

お弁当を作るだけで1時間もかかるなんて、この先やっていけるだろうかと、くだらないことを考えては憂鬱になる。 いつだって要領は悪くて、愛想でなんとかしようとしてきた私だから、張り付かせてきた笑顔だけは自信があるなんて、自慢にもならないね。 他人…

また飲みにでも行こうよって君は

去っていく日の空は、訪れたはじめの日の色に似ていた。 がらんとした白い光の差し込む部屋で、まるで夢のようにぼんやりとしたままで、いつの間にか始まって、そしてふと終わっていった。 終わりにしたのは私。 けれど、また否応なしに きっと日常に飲み込…

言葉はいつか消えてしまう

誰かの目をしっかりと見れるのは、仕事の時だけ。 初対面の人と話すのはとても楽だった。聞けることがたくさんあるから。 2回目以降からどんどん話題がなくなって、気まずくなるのが常だった。 君の話をしてよ、って私は思う。 いつだって思う。 私には語れ…

君は身勝手で自由を知らない

曇り空を見ればなんとなく憂鬱になって けれど晴れて肌が焼けるくらい暑い日は、 もう少し曇ればいいのに、と勝手なことを思う私だった。 足早に大勢が行き交う朝の駅で、誰のこともひどく遠く感じる。 すれ違う人は全く他人で、いてもいなくてもそれが誰で…

できれば道端の石になりたい

夕飯につくった茄子の味噌炒めの味が濃すぎて、なんだか泣きたくなるよ。何に対してもちょうどいいバランスが分からない自分のことを、見放してしまいたくなる。 客観的に、なんて、難しいことを言うね。 いつまでも主観は切り離せずに、私の中心は私であり…

正しかったのは無関心でいられたから

誰かの悪口を聞いて救われたことがあるなんて、最低だね。 でもそんなふうにしか慰められなかったことを、 それでも後悔すらできなかったんだよ。 雨に濡れたアスファルトが、反射してキラキラ光るのが綺麗だって、 そう思うのと同じように、 君の瞳からこぼ…

つくりものだよって君は笑ったけど

あのテーマパークの雑踏のなかで、 絵の具を薄くといたような水色の空を見上げたことを、覚えている。 パレードの色とりどりの紙吹雪が、 何もかもを覆いつくすように舞っていた。 そこでは誰もが笑顔だった。 永遠のように鳴り響いていた音楽に、 まるで夢…

土だけが残った鉢植えを

庭先に気づけば咲いていた朝顔の美しさが、自分のものにはならなかったように、 誰かの喜びは、自分の喜びにはならなかった。かつて大袈裟に誰かを祝い、自分のことのように喜んでみせては、 同じように自分に返ってくると当たり前のように信じたことが、 こ…

雨が降ればいつも濡れてしまうその肩

例えばそれは、穴のあいた傘。誰かに差し出しても黙って首を振られるような。 君のやさしさは、いつだってそんな風だった。 君は、君自身を削って分け与えることが誠実だと信じた。 けれど全てを与えきれない自分のことを、君は許せなかった。 君のやさしさ…

車窓から見えた遠ざかっていく街は

別れる時はいつも、またそのうちに会えるかのような、淡白なさよならを言った。だから、去り際に感極まって泣きだしてしまう誰かを、まるで遠い世界の人間のようにぼんやりとただ眺めた。 そうして涙は、いつだって流れなかった。そうやって別れから目を背け…

記憶のなかで私はやさしい

なにかをしようとして、ほんとうは何もしたくなかったことに気付く。「とても悲しい」と言葉にして、本当はそんなに悲しくはないことに気付く。 いつも中途半端に、感情すらも中途半端に日々が過ぎて、いまの自分には特別に嬉しいことも悲しいこともなく、た…

今日と明日のあいだに何も変わりはしない

君が、人とうまく喋れない自分を許せなかった 長い夜のことを、覚えている。君は、これまでの自分は他人に対して関心が薄すぎたのだ、と思った。 けれどもまた、他人を耐えず意識して、そしてすがりすぎたのだ、とも思った。 あの夜明けの空を見るといつも、…

通り過ぎた駅にまた明日も

地下鉄が通りすぎる音が、耐えられないほど耳障りに感じるときは、たいてい感情が疲弊している。 死んでしまいたいほど辛いことがあったわけではなかった。 たぶんそれは、例えば公共料金を単なる怠惰で延滞したり、つまらないミスでつまらない言い訳をして…

なにかにすがりたかったあの夜のことを

笑っていたのは、楽しかったから。 そうだと信じた君の純粋は、 いつからか戸惑って全てを疑い始めた。 愛想笑いと自分の心があべこべになっては、 また同じになったりした。 悲しかったのは、無理に笑うことではなく、 自分の心を見失ったから。 歩道橋から…

やさしいから君は、君の悲しみに気付かない

いつか望んだことを、君が覚えていれば嬉しい。 諦めることは生きていく術ではあるけれど、 けれどそれだけではやはり悲しい。 君が、悲しくはないと慣れた顔で笑ってたとしても。 いつか夜の闇にぽつんと光を灯した自動販売機の前で 君は誰からも忘れられた…