選ばれなかった私に。

たまった思いを淡々と。

言えなかったごめんもさよならも

ちかちかと点滅するウィンカーの音を、助手席で聞くのが好きだった。
黙ったままで、ぼんやりと窓の景色を眺めて、君には目を向けずに。


いまここで、こんな風に何気なく存在していることを不思議に思う
かつての分岐点で、ひとつでも選ばなければここにいなかった自分のことを。
もしかしたら歩道を歩いていた
もしかしたらあのマンションで洗濯物を干していた
あるいはあの人の場所は自分の場所だった

君になんて出会わなかった。


遠い日に何度も繰り返し聞いた曲を、ふと懐かしく思い出しても
曲名さえ忘れてしまったから、もう聞けなかった


人にやさしくなりたかった私がその曲を聞いて泣いたことを
誰にも話さなかったのは、
そんなことに他人が興味を持つと思えなかったから。
なのに君に話した大人になった私は、あの頃よりよっぽど不安定だったね。


君との距離が近くなるほど、
我儘になって高慢になって、
本音を素直に表情に出すことも出来ない
やさしくなりたかった私は、
どうしてか君にやさしくできない


ある日、君のことがとても嫌いだ
君の痕跡を見るだけでも苛々する
ある日、君のやさしさに胸が痛くなる
もっと優しい女の子と付き合ったら君は幸せなのにと申し訳なくなる


君がいない日々に
きっと私はすぐに順応できる
自由さえ感じる
なのに別れることができなかった
手を握った君の温度が、冷え性だった私の手をずっと温めたから


君は
沈黙に怯えてなに考えてるのって聞くけど
自分のことだけを考えていた私は、
君にやさしくしたいのに
なんでもないって素っ気なく答えていた


せめて、
はじめの日と全く同じに、
繋いでくれた手が嬉しいと
伝えることができればよかった。